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第一回 DXを阻むもの①「人間」

ご存知のように、そもそもコンビュータのシステムはDXという言葉が生まれる前からあったわけで、今さら何が変わったのという人もいると思います。今までのシステム開発というのは、会社の一部分、部門や担当部署を効率よくミスなく行うために開発されてきました。つまり今までのシステム開発との一番大きな違いは、大規模なシステム、会社全体のシステムだということです。

DXが難しいのは、コストが高く時間がかかるという事もありますが、システムが完成しない、または思っていたものとは違うものが出来上がってしまうことがあるという点です。

DXが進まないわけ

今までのシステム開発は部署単位の開発ですから課長や担当者が使いやすいものを作れば問題なかったのですが、DXになると大規模な開発ですから多くの部署の人たちを巻き込み、様々な人が意見を述べ合う開発となります。会社全体としては効率が上がっても、A部門の便利がB部門の不便になる可能性もあります。つまりDXを阻む問題の一つが「人間」です。

交通量調査のソフトを開発したとき、こんな経験をしたことがあります。ちなみに、交通量調査とは、たまに道路の脇にテーブルを置いて座っている人を見かけたことがあると思いますが、あれがそうです。
今はコンビューターで処理していますが当時、調査会社は、アルバイトを雇い、どんな車がいつ何台通ったかをカウントし、所定の用紙に書き込んでいき、後でまとめて集計を行います。交通量調査は一斉に行われるうえに、1枚の用紙に数百の項目があり、それぞれ数値が書き込まれるようになっています。この用紙が数百枚もあるので、集計は大変な作業になります。

2000年当時、OCR(スキャナー)を使って、紙に手書きした数字を読み取ってデジタルデータに変換するソフトを作っていたため、交通量調査の会社の役員から、交通量の集計ソフトを開発することが可能かどうか検討してみてほしいという依頼がありました。
さっそくお伺いし、担当者を紹介していただきました。この方は初めてお会いしたときから、役員の言うことなのでしぶしぶ協力するという雰囲気で、新システムの導入に反対していることがありありとわかりました。
数週間後、テスト用のシステムが完成し、チェックをしてもらうため調査会社を再訪しました。すると、その担当者は、まず用紙の数字を記入する欄(1センチ四方の枠)のはしっこのほうに、3ミリくらいの米粒のような小さな字を書き込みました。
「どう、これで読み取れるの?」
「どうしてこんなに小さい、OCRでは読み取りづらい字を書くのですか」
と質問すると、
「アルバイトにはいろんな人がいる。きちんと枠一杯に書くように指示しても、小さい字を書く人もいる」
ということでした。こちらも、そういう事情は想定外でしたが、テストしてみると難なく読み取ることができました。
次に彼は「用紙が汚れることもある」と言い出し、鉛筆書きした用紙を袖でこすりつけました。これまた難なく読み取りました。すると今度は突然、用紙をくしゃくしゃに丸めました。「用紙がくしゃくしゃになってしまうこともある」ということです。こうなると、私も意地になります。用紙を綺麗に伸ばしてセット、これまた読み取ってしまいました。
最後には「交通量調査は雨の日も行うので、用紙が濡れてしまうこともある」と言って、わざわざ用紙に水をかけてきて「コレ読み取れるか」という難問。さすがに、これは無理かなと思いながらもやってみると、きちんと読み取れたので、逆にこっちがビックリしてしまいました。
その日は意気揚々と引き上げましたが、1週間後、その会社から連絡がありました。
「時期尚早のため導入を見送ります」とのことでした。
後で判明したことですが、その担当者には大勢の部下がいて、このシステムを導入すると彼ひとりの部署になってしまうそうです。そこで彼は、役員に「使い物にならない」と伝えたのです。
たまに「俺の下には部下が何十人いる」と威張っている部課長がいます。また「俺が一声かければうちの兵隊(社員の事)がすぐやってくる」なんていう人もいます。経営者にとってはつまらない支配欲ですが会社が大きくなればなるほど、この手の人も多くなります。

自分が不要になる

ある担当者のお話です。開発会社から提案された内容を見ると、事務効率が上がりスムーズな受発注ができるシステムです。これは素晴らしいと賛成しようとした瞬間、彼の頭の中をある考えがよぎります。待てよ、このシステムが導入されたら俺が要らなくなるじゃないか。導入後、俺は何をしたらいいんだ。そして彼はこう言います。「僕はこのシステムには反対です。なぜなら」。反対の理由はいくらでも出てきます。自分の身を守るためですから彼は必死です。
こうした事のないように取締役やDX推進のTOPが、DX導入にあたって雇用は必ず守るという事を社員全員に宣言する必要があります。

慣れた仕事にしがみつく

ある会社のシステムを開発する事になりました。社長から「何を作るかはこの人に聞いてください」とひとりのおばあさんを紹介されました。このおばあさんから話を聞くと手作業が多く、大変非効率なやり方をされています。しかしこうしたら良いのではとアドバイスしても聞く耳を持ちません。困り果てて社長に相談すると「あの人は先代の社長のときから経理をしているんですよ。彼女の仕事を他の人にやらせようとするとすごく怒るので、そのままなんです。そこで少しでも効率をよくしようと思い、彼女が気に入るシステムを開発するからと言って貴方を呼んだんです」。との事でした。
会社の規模に関わらず、新しい変化が起きると都合が悪くなる人たちが多数存在します。人はみな「今まで慣れた仕事を慣れたやり方」でやるのが一番好きなのです。新しいやり方が良いとか悪いとか効率的とか、コストダウンできるとか、そんな事はどうでもいいのです。慣れたやり方を否定されること自体が嫌なのです。DXを推進するという事は、こういう「変わらない人たち、変えようとしない人たち」との闘いでもあるわけです。

いかがでしたでしょうか。ここには紹介しませんが、取引先からリベートをもらっている、組合との軋轢、親会社からの出向社員などDXを阻むもののひとつ目は人間です。