お問い合わせお問い合わせ

メニュー

第二回 DXを阻むもの②「全部」

全てに対応

DXの開発会議が中断するものとして多いのが、全てに対応しなければならない、全てを網羅しなければならないという意見です。

大きな団体で会計システムを作成するときのお話です。会議の中である人が「会計システムとして機能させるならば、国内全ての業種に対応した勘定科目にでなければならない」と言い出しました。その後、担当者が数年かけて国内全ての業種の勘定科目の洗い出しを行い、その勘定科目の数は数万に及ぶことがわかりました。勘定科目の中には、航空機部品洗浄、汚物運搬手数料といったものもありました。結局スタートしたもののほとんどの勘定科目は使われないことがわかり、当初の半分になり、そしてさらに半分に減っていきました。

網羅の罠

全てに対応しなければならないというのは一見、正論に聞こえますが、DXを阻む大きな障害と言えます。DXが目指すものは標準化であり全てを網羅する事ではありません。むしろ重要度の低いものは切り捨てていく、もしくは、DXに合わせる事が必要です。

特に中小企業のDX推進会議でよく出てくるのは「あのお客様だけ請求方法が違う」「あそこはロット販売できない」といったレアケースへの対応です。こうしたレアケースに合わせていくと、システムはどんどん肥大化し、特定の人しか使えないものに変貌していきます。そして、ついには誰も使わなくなってしまいます。

しかし、そうは言っても対応しなればならないという場合には、レアケースだけ人間がやればよいのです。無理やり数%のレアケースをDXに入れてしまったために、関係ない部署の多くの人たちが迷惑する事になります。今までのような部署で導入するITシステムならば、それも仕方ないことでしたが、DXという会社全体で利用するシステムの場合、レアケースは切り捨てる事も重要な判断と言えます。

収集の罠

網羅に近いのがデータ収集です。とにかく何でもデータを入れたがる人がいます。このデータが欲しい、あれもこれも重要と何でもかんでもデータを入れたがります。ある会社の人事管理システムで、祖父の生年月日、祖父の性別という入力欄まであってビックリしたことがあります。担当者に聞いてみると「前任者が、何年生まれの祖父を持つ孫が、会社で良い成績を残したのか見たかったみたいです。僕は意味ないと思うんですけどね」とぼやいていました。

コンピュータにはどんなにたくさんのデータを入れても問題はないのですが、それを入力するのは人間です。それを見るのも人間なのです。データが増えれば増えるだけ人間の作業が増えていきます。ある会社で、どうしてこのデータが必要なのですかと聞くと担当者もその上司もわかりません。「昔からインプットしていたんで習慣で入れているのかもしれません」との事でした。

かくいう私もお恥ずかしい話ですが、所属する会社で20年前の訪問時の記録が残っていました。もうその担当者が会社にいるのかどうもわからないですし、昔のデータに惑わされることもあります。古いデータは即刻、削除させましたが、こうした捨てられないデータを後生大事に保管するというのも収集の罠と言えるでしょう。